2004年11月24日水曜日

「アンチ建築」

隈研吾さんの「10宅論」「グッドバイ・ポストモダン」を読む。

建築家は、住宅の設計が全ての建築の基本だと考えている。住宅は小さなものだが、新たな「建築的発明」をすれば世界中の住宅に影響を与えることができる。だから住宅の設計は大切なものだし、建築の世界をひっくり返す可能性を秘めた設計対象だというわけだ。

10宅論は、そんな『住宅に対する過度な思い入れ、住宅の神聖視、思わせぶり、建築家の自己宣伝―そういったものをすべて排除して、今日の日本人が実際にどういう住宅にどんな気持ちで住んでいるかをできる限り正確に記述』した本である。つまり、建築家がじっくり設計する「肩の力の入った住宅」だって、他のタイプの住宅と本質的な差異は無いんだ、ということを示した本である。

隈さんはこの本の中で、住宅を10種類に分けてそれぞれのタイプを分析している。もちろん、建築家が設計する住宅もそのうちのひとつであり、ワンルームマンションやペンション風住宅より上等でも下等でもない。住まい手にとっての住宅は、自分の世界を存分に表現できる空間であることに変わり無いのである。

そんな建築家の中でも、他の建築との差異を反復し続けたのがポストモダンの建築家達だろう。隈さんは「グッドバイ・ポストモダン」のなかで11人の建築家にインタビューしている。いずれもポストモダンの旗手と呼ばれていた建築家だ。

建築家へのインタビューは1985~86年にかけて実施された。その結果をまとめた「グッドバイ・ポストモダン」は1989年に出版されている。既に日本でもポストモダンの建築に翳りが見え始めた頃だ。ポストモダンにサヨナラするには絶好のタイミングだったのだろう。1989年の7月に初版が発行された「グッドバイ・ポストモダン」は、4ヶ月後に増刷されている。

ところで、隈さんの作品のなかでもっともポストモダンな建築「M2」は、1989年に設計されて1991年に完成している。1989年といえば、すでに隈さんがその著書でポストモダンに別れを告げた年である。にも関わらず、自作「M2」がこれほどポストモダン的なのはどういうことか。

ひょっとしたら、隈さんは1989年の時点でもなお、ポストモダンに可能性を感じていたのかもしれない。改めて「グッドバイ・ポストモダン」を読み直してみる。インタビュアーである隈さんの発言には、ポストモダンへの批判的な発言が見当たらない。インタビューを受ける11人のポストモダン建築家の発言にも迷いはない。つまり「グッドバイ・ポストモダン」は、全編を通じてポストモダンに肯定的な内容なのである。

「建築的欲望の終焉」「建築の危機を超えて」「反オブジェクト」「負ける建築」。隈さんの著作のタイトルはアンチ建築的なものが多い。ところが内容はやはり建築について論じている。批判的な文章も肯定的な文章も、建築についてのものなのである。1989年当時の隈さんは、徹底的にポストモダンを語りたかったのだろう。アンチポストモダンな態度を示しているものの、当時の隈さんはポストモダンを愛していたのである。

いま、隈さんは建築に批判的な態度を示している。建築を作ることが恥ずかしいのだと言う。でも隈さんは建築を愛しているはずだ。「グッドバイ・建築」というそぶりを見せながら、実は「アイ・スティル・ラブ・建築」なのである。

週末のアーキフォーラムでは、隈さんの建築批判に安易な同調を示すべきではない。一緒になって建築を批判した瞬間に足元を掬われることになるだろう。批判的な態度を示していても、彼は建築を愛しているのだから。


M2

山崎

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